経済発展により
傷つけられる自然と、
自分自身の固有の文化
私が生まれ育った地域では「目に見えない何か」を信じ、どこの家にも様々な神様が祀られていました。火の神様、水の神様、神棚に仏壇など、先祖や自然を敬う習慣が日常的にあり、民話やいろいろな言い伝えを聞いては「目に見えない何か」を意識しない事はなかったように思います。
私の作品はこうした日常生活で感じていた目に見えない世界を、実際に見たり、聞いたり、読んだりしている中から断片を取り出しそれらを組み合わせることによって表現しています。個々のモチーフに明確な必然性があるとは限りませんが、自分なりに興味のあるテーマにユーモアや風刺も取り入れることにより異次元の世界を作り出しています。
私にとって個人的と思われる記憶や体験を素材として用いていますが、そこに表現された世界は誰もが忘れかけている感覚や記憶を彷彿とさせることができたら、と思っています。
作品の多くは自然に対する尊敬と感謝を表しています。現代人の生活は自然や生物の犠牲に基づいて構築されていることを忘れてはいけないと思うのです。
家畜達は生きるものとしての尊厳を全く顧みられず、殆ど感謝もされず機械的に処理され、当たり前のように食卓にあがっています。また、人間が我が物顔で破壊しつくしてきた自然からの警告は、私たちの向かう先を暗示しているかのようです。私は人間であることに酷く違和感を覚えてしまいます。
それでもふと周りを見ると、日常生活とは別の裏側の世界に潜んでいる様々な自然や生き物が息づいていていることを感じるのです。彼らは破壊されてもなおそっと私に温かい眼差しを送ってくれているのです。私はそういった自然と共に生きる事を感じながら、精神的な結びつきがもたらす豊かで温かい世界を描いていきたいと思っています。
グローバル化により各地の固有の伝統文化は失われ均質化が進んでいます。経済発展により傷つけられる自然と自分自身の固有の文化は、私の中では切り離すことのできない一つの物で、それが私の作品の主要なテーマとなっています。そのために、私は日本の絵画表現の伝統を参照しながら制作をしているのです。